6月曇り空のある日、
ジリジリーと電話が鳴った。
「もしもし、はじめまして
こちら○株式会社酒造部の○○と申します。」
おっとー、私は少し意表をつかれた。
この営業マン、テンションレベルが異常に高い。
FFI(GBAじゃなくファミコン)のカオスの前にいる中ボス、
「リッチ」ぐらいだ。
戦士、戦士、黒魔導師、白魔導師の構成で戦った場合、
全員のレベルが30以上なければ苦しいだろう。
だが、私は落ち着いていた。
相手に応じてテンションを柔軟に変化させるのは得意なほうだ。
ちなみに体も柔軟なほうだ。
学校のスポーツテストでよくやる前屈は、
今でもマイナス20cm以上いく。
「お電話ありがとうございます。」
「山口農園 山口明宏です。」
1秒間考えて、私は通常のテンションで対応した。
内容はと言うと、いわゆる営業ではなく、
注文の電話だった。
(ありがとうございますm(_ _)m)
先方は写真の焼酎を売っている
酒造メーカー酒造部の方であった。
私のHPで焼酎を紹介してくれている事を
喜んでくれている様子だった。
喜ばれるというのはなんでも嬉しいものだ。
(私もたまには喜びたい。)
しかも紅南高梅を3kgもご注文してくれた。
(ありがとうございますm(_ _)m喜んだ。)
とまあ、これが6月中旬の事である。
だがこの出会いが、
後に東京ラブストリーなみの恋愛ドラマへと発展していくとは、思ってもみなかった。
時はそれから4ヶ月後の10月15日。
私は友人の結婚式に出席するため和歌山市内に来ていた。
式も無事終わり、私が結婚式を挙げるのはいつになるのだろう、
という一抹の不安と戦いながら一人とぼとぼと会場を後にした。
せっかく市内まで来たのだから、土産でも買っていくかー。
式場の前はマリーナシティというテーマパークになっている。
日曜ということもあって家族連れで賑わっていた。
吸い込まれるように入場券を払い、
これまた吸い込まれるように一つのブースに入っていった。
そのブース名は「和歌山館」
和歌山の衣、食、住の文化を展示、販売しているところだ。
まあぜんぜん関係ないと思われる、トトロのぬぐるみも置いてあったが…。
土産になりそうなものを探しながら歩いていると
地酒のコーナーがあった。
酒は好きだ。
弱いけど好きだ。
これは、歌を歌うのが好きだ。
下手だけど好きだ。
というのより害が少ないと思う。
そして、ずーーと端から順番に見ていて、
びっくらこいた。
棚の一番上、ちょうど目の高さにあたる所に一つの梅酒が置いてある。
その瓶には手書きで
「紀州熊野の紅南高梅で漬けました」と書いてある。
こっこれは、まさか!
慌ててその陳列スペースのメーカーを確認した。
○酒造…
おおー!
高鳴る鼓動を抑えきれなくなっていた。
まるで10年ぶりに昔の恋人と同窓会であった気分だ。
しかもその子はもう結婚していて、自分の所へ戻ってくる可能性はない。
「元気でやってたか?」
梅酒に直接声で語りかけると、非常に危ないやつと思われるので、
心のなかで問いかけてやった。
だが、梅酒は反応してくれない。
結末は同窓会と同じであった…。