そこには「だるまさん」が座っていた。
じゃなくて副社長が座っていた。
この「SUNTORY OLD」のことを
別名「だるま」と呼ぶと知ったのは大学4回生の時だった。
「あんちゃん、だるまおろしてくれる?」
はて?
このお客さんは、いったい何を言っているのでございましょうや。
私が一瞬途方に暮れていると、
約2年のサイクルで替わる店の店長が、
「ヤマグチクン、だるまというのはこのサントリーオールドのことを指すのだよ」
と教えてくれた。
ちなみにその時の店長より、私の方が長くその店にいる。
なるほどこのお酒、だるまに似ている。
間違ってもマグロには似ていない。
どっちかというとマグロの方が好きだが。
私が「だるま」と聞いて思い出すのは、「選挙」しかない。
それで想像してみた。
例えば、このサントリーオールドが選挙事務所に置いていて、
しかも絵柄がだるまそっくりにしておくと、
誰もわかんないんじゃないかって思う。
選挙で勝ったら、そのまま一杯やれるし、
まあ負けても腹いせに一杯やれる。
どっちに転んでも大丈夫だ。
一石二鳥だ。
いいこと尽くめだ。
これから選挙に出る人たちには、そうしてもらうように進めてみる。
(知り合いに選挙に出そうな人いませんけど…)
も一つ。
我が町、上富田町には「ダルマ寺」という寺がある。
正直、あんまり宣伝したくないんですけど…。
んで、小学校の時、一こ下の学年のS君が、
このダルマ寺のことを間違って
「だるでるま」
と言って爆笑を誘ったのを思い出した。
普段はちょークールでダンディーなS君でも
決めるときはきちんと決めるんだと感心してしまった。
ごめんなさい、話がすっかりダルマモードになってしまった。
サントリーオールドを「だるま」と呼ぶと知った日。
ちょうどバイトしてた居酒屋2階で宴会があった。
出席者は副社長と工場長とその他諸々3名の合計5名。
連結1兆円の副社長である。
私はいつになく緊張していた。
2階でエレベーターから上がってくる料理を待っていると
秘書か総務課の女性が「とことこ」って準備室に入ってきた。
「今日はお世話になります。」
バイトの私に、なんて高尚な言葉をかけてくださるんだろうと思いながら
「いえいえ、こちらこそ」と頭を下げて
「やっぱ緊張しますね。ふくしゃちょーとなると」と敬服の一言
「ん?そんなことないよ。だだのおっちゃんだよ」
「えっただのおっちゃん?」
「副社長のことをおっちゃん?」(心の声)
もしかするとこの女性が、副社長よりえらい社長かと思った。
が、身なりからとてもそうとは思えない。
推定28歳。
小さくて結構べっぴんで、笑うとえくぼがかわいい。
ほっぺに米粒を置いて鍛えているんじゃないか、って思うほど「ペコ」ってえくぼが出来る。
おねーさんと準備室でいろいろ話をしているいちに
一品目の料理が上がってきた。
「じゃあよろしくね」
おねーさんはそういって宴会場に戻っていった。
トントン。
片手に皿を持ち、ドアをノックする。
「失礼します」
緊張して、料理を顔にぶっかけてしまわないように
慎重に慎重を重ねて副社長の前にお皿を置いた。
それでちらっと顔を見た。
なるへそ、副社長といえどもおっちゃんだ。
ついでにおねーちゃんの方もちらっと見た。
あいかわらず、米粒がはいりそうなえくぼで笑っていた。