部屋にはいると、地区の重鎮らしきおじさんが二人座っていた。
暖房がまだ効いていないのだろう。
あえぎ声に似た音を出しながら、
年代物のエアコンがもがいている。
先月約2年ぶりにロンドンから帰ってきたK子が
「どうして宇多田は、あんなに苦しそうな声で歌うんだろうね。」
と言ったのを思い出した。
そうこうしているうちに始まりの時間になった。
が、まだ4人しかいない。
しかも私以外は、みな寄り添うように座っている。
断片を聞くと、どうやら「岸焼き」について話しているようだ。
「消防車がどうだ」とか「役場がどうだ」とかいっている。
岸焼きとは、「地区を流れる河の岸を美化のために焼くこと」である。
なるほど岸焼きは必要だ。
ここまで書いて察しがついた人もいると思う。
私は町内会の集まりに出席しているのだ。
しかもあり得ないことに
僕は「岡川地区町内会会長」という重役に就いている。
会長とは「chairman」ということだ。
つまり、山口チェアマンということだ。
決して川淵チェアマンではない。
書いて気づいたが、こっちの方が数段かっこいい。
これからは、「岡川地区山口チェアマン」と呼んでもらうようにしよう。
バカなことを考えているうちに、
ぞくぞくと人が入ってきた。
まるで遅れるのを申し合わせていたようだ。
全員がそろったのは18時10分。
12の重鎮がそろった。
僕はおそるおそる顔を上げてみる。
みな明らかに僕より年上だ。
20代と思われる人は一人もいない。
30代もいない。
90代もたぶんいない。
僕の状況といえば、まるで大学生の中に小学生が混じっているような状況になっていた。
アメリカには飛び級制度というのがあるが、
この制度は明らかに問題がある、と言わざるを得ない。
めちゃくちゃ居心地が悪いのだ。
ちょうど8歳の子供と、20歳の青年がディベートをはじめるような感じだ。
この場合、20歳の青年の方が居心地が悪いかもしれないが…
だがみんな集まったというのに、議論が始まらない。
始まらないのでボーとして1分。
気がつくと、いつの間に「釣り」の話題で盛り上がっている。
四日連続で釣りに行って、グレを三枚釣ったとか。
2kgのイカは上げるのに苦労したとか。
話はどんどん盛り上がっていくのが分かった。
昨晩ほとんど寝てなかった私は、
話題について行けないこともあり、急激な睡魔に襲われていった。
どこでも寝られるのが私の特技の一つだ。
本ネム状態はさすがにやばいので、
半ネム状態で心がけた。
「ヤマグチサン、ヤマグチサン、起きてますか?」
黄泉の国から引き戻そうとする、その必死な声で目が覚めた。
目覚めて驚いた。
11人全員がこちらを向いている。
しまった!
半ネム状態のつもりが、本ネム状態までいってしまったのだ。
二十二の瞳に見られるというのは、結構怖いものがあった。